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「曽根崎心中 徳兵衛お初 道行」の原文と現代語訳

──「初音ミク+鏡音リンの百合ジナル曲4 曾根崎心中」にも敬意を込めて歌詞を追ってみました

追伸:「あらすじ」とあわせてお読みくだされば幸いです。

『曽根崎心中』のクライマックスともいえる「徳兵衛とお初・心中の道行」の部分の原文および現代語訳を掲載しました。原文だけでもいくつかバージョンがあるものの,ここでは,ウェブサイトでの掲載のため改行等でアレンジを施しています。これまで数多くの曽根崎心中についての書籍が出版され,数多くの専門家による現代語訳や解説があります。より深く知りたい方は,このページを入門編とお考えください。

いっぽう「初音ミク+鏡音リンの百合ジナル曲4 曾根崎心中」で近松門左衛門や曽根崎心中のことを知った方へ。このページでは「初音ミク+鏡音リンの百合ジナル曲4 曾根崎心中」で引用されている原文を赤字で強調しつつストーリーを追ってみます。歌詞そのものが「道行」のダイジェストともいうべき内容で脱帽モノですが,ボーカロイドの歌声をなぞらえながら,近松門左衛門の筆の跡も味わうきっかけとなれば幸いです。

現代語訳については原文に忠実な部分と少し意訳してアレンジした部分があります。掲載にさいし検討を重ねておりますが,ご意見やご感想をありがたく承ります。

「初音ミク+鏡音リンの百合ジナル曲4 曾根崎心中」の作詞者は近松門左衛門となっており死後300年近く経った人ではありますが,歌詞そのものの掲載は控えさせていただきます。とまれ「初音ミク+鏡音リンの百合ジナル曲4 曾根崎心中」を作られたデッドボールPさんには深く敬意を表します。

「曽根崎心中 徳兵衛お初 道行」

原文

現代語訳

此の世のなごり夜もなごり。
死にゝゆく身をたとふれば。
あだしが原の道の霜。
一足づゝに消えてゆく。
夢の夢こそあはれなれ。

ふと暁(あかつき)の。
七つの時が六つなりて
残る一つが今生こんじやうの。
鐘の響(ひゞき)のきゝおさめ。
寂滅為楽と響ひゞくなり。

この世も最後、夜も最後
死にゆく二人をたとえてみれば、
墓地への道に降りる霜(しも)のように
一足ごとに消えていくようなもの。
夢のなかで夢みるようで哀(あわ)れです。

ふと夜明け前の鐘の音を数えてみたら
七つある時の鐘も六つが過ぎて
残る一つはこの世で最後の
鐘の響きの聞き納め。
苦悩が消え安楽を得たように響きます。

鐘計(ばかり)かは草も木も
空もなごりと見上ぐれば。
雲心なき水の音
北斗はさえて影うつる
星の妹背(いもせ)の天の川。
梅田の橋を鵲(かさゝぎ)橋と契りて
いつまでも。我とそなたは女夫星(めをとぼし)
かならず添ふと縋(すが)り寄り。
二人が中に降る涙
川の水(み)かさもまさるべし。

お別れするのは鐘の音だけ? 
草や木そして空もお別れと見上げてみると
雲は風にまかせて流れ
水の音も流れにまかせて響きます。
ひかり輝く北斗七星の影を映す水面(みなも)
彦星と織姫が夫婦となって渡る天の川に見立て梅田橋を鵲橋になぞらえて契りを結び
「ずっと私とあなたは女夫(めおと)
 いつも傍(そば)にいて離れない」
とすがり寄る、お初と徳兵衛
二人の間で降る涙で川の水かさも増すことでしょう。

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お初と徳兵衛の像@お初天神

むかふの二階は。なにや共(とも)
おぼつか情(なさけ)最中にて。
まだ寝ぬ火影声高く。
今年の心中よしあしの。
(こと)の葉草や。茂るらん。

聞くに心もくれはどり
あやなや昨日今日迄も。
余所(よそ)に言ひしが明日よりは
我も噂の数に入(いり)
世に歌はれん 歌はゞ歌へ
歌ふを聞けば。

どんな店かわからぬが川向こうの二階では男と女が逢瀬(あいせ)の最中。
まだ寝ないのか(あかり)の影が浮び
大きな声で今年も噂話の絶えない心中を品定め。

聞いているだけで心が昏(くら)くなります。
道理もわからないまま昨日や今日まで
他人事と口にしていた心中だけど
明日からは私達二人も噂話の一つになって
そこかしこで歌われるわ。歌うなら歌って
と、どこからか歌声が聞こえる。

どうで女房にや持ちやさんすまい。
いらぬものぢやと思へ共(ども)

げに思へ共(ども)歎け共(ども)
身も世も思ふまゝならず。
いつを今日(けふ)とて今日が日まで。
心の伸びし夜半(よは)もなく。
思はぬ色に苦しみに。

「どうした事の縁じややら。
忘るゝひまはないわいな。
それに振り捨て行(ゆ)かふとは。
やりやしませぬぞ手にかけて。
殺してをいて行かんせな。
放ちはやらじと泣きければ」。

「どうせ女房に持ってくれないのでしょう
私なんて必要のない身とは思うけれど」

本当にそう思って嘆いても
我が身も世間も思うようにはなりません。
いつ思うようになる日が来るのかと今日の今日まで心やすらぐ夜もなく、
思いがけない色恋に苦しんできました。

「どうしたことのご縁でしょう
忘れることなんてひとときもありません。
なのに振り捨てて行こうだなんて。
行かせはしません。行くのなら私に手をかけて殺してから行って。
放しはしませんと泣くので」

歌も多きにあの歌を。
時こそあれ今宵(こよひ)しも。
うたふは誰(た)そや聞くはわれ。
過ぎにし人も我々も。
一つ思ひと縋(す)がりつき
声も惜まず泣きゐたり。

「あまたある歌のなかであの歌を
よりによってこの夜に歌うのは誰?
聞くのはあなたと私。
この世を去った二人と私たちの思いは一緒」
二人はすがりついて
声を惜しまずに泣いていました。

いつはさもあれ此(こ)の夜半(よは)ゝ。
せめてしばしは長ゝらで
心も夏の夜の習ひ
命を追(お)はゆる鳥の声
明けなば憂しや天神の。
森で死なんと手を引きて
梅田堤(むめだつゞみ)の小夜烏(さよがらす)
明日はわが身を。餌食(ゑじき)ぞや。

いつもならともかく今夜だけは
せめて少しだけでも長くあってほしいのに
無情な夏の夜の常でしょうか
死を迫るような夜明けの鶏の声。
夜が明けると困るから天神の森で死のうと二人は手を引き合い梅田堤を急ぐと
耳にするのは堤にいた夜烏の鳴き声。
きっと明日は我が身が餌食となるでしょう。

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道はかつての川で街灯の向こう側にあるのは梅田橋ビル@堂島三丁目交差点

誠に今年はこな様も
廾五歳の厄の年。
(わし)も十九の厄年とて。
思ひ合ふたる厄祟(だゝり)
縁の深さの印(しるし)かや。

「嘘偽りないことに今年は
あなたが二十五歳の厄年。
私も十九歳の厄年で
二人が思い合ったのも厄たたりだなんて
これも深い縁のあかしですね。

神や仏に掛置(かけを)きし
現世の願(ぐはん)を今こゝで。
未来へ回向し後(のち)の世も
なをしも一つ蓮(はちす)ぞやと。



爪繰(つまぐ)る数珠(じゆず)の百八に
涙の玉の。数添ひて
尽きせぬあはれ尽きる道。
心も空も影暗く
風しんしんたる曽根崎の
にぞ。辿たどり着きにける。

これまでずっと神や仏にお願いした
この世で夫婦となる願いを今ここで
未来に成就するように差し向けて
なおいっそうあの世で同じ蓮の葉の上で生まれ変わりましょう」


爪先でつまぐる数珠の百八の玉に
涙の玉の数が加わって
哀しみは尽きないのに尽き果てる
心にも空にも暗い影が漂うなか
風が身にしみる曽根崎の森にたどり着きました。

かしこにかこゝにかと払へど草に散る露の我より先にまづ消えて。定めなき世は稲妻かそれかあらぬか




(徳兵衛)「アヽ怖(こは)。今のは何といふ物やらん。」

あちらかこちらかとさまよい死に場所を求め、いくら払っても散り続ける草の露が、私たちより先に消えてゆく。はかないこの世は刹那の稲妻みたいなものと思った矢先、お初の目に映るものは……

(お初)「あっ怖い。今みえたのは何というものでしょう?」

(お初)「オヽあれこそは人魂よ。今宵(こよひ)死するは我のみとこそ思ひしに。先立つ人も有りしよな。誰(たれ)にもせよ死出の山の伴ひぞや。南無阿弥陀仏(あむあみだぶつ)。南無阿弥陀仏」

の声の中。

(徳兵衛)「おお、あれこそ人魂(ヒトダマ)。今宵(こよい)死ぬのは我ら二人だけと思っていたのに、先立って死んだ人もいたようだね。その人が誰であれ、あの世の山を越える道連れだよ。なむあみだぶつ。なむあむだぶつ」



と念仏を称(とな)えていたら、また飛んで……

(徳兵衛)「あはれ悲しや又こそ魂の世を去りしは南無阿弥陀仏」

といひければ。女は愚(をろ)かに涙ぐみ。

(お初)「今宵(こよひ)は人の死ぬる夜かやあさましさよ」

と涙ぐむ。男涙をはらはらと流し。

(徳兵衛)「なんて悲しいことだ。またこの世から魂が去って逝った。なむあみだぶつ」

と口にすれば、お初は耐えきれず……

(お初)「今宵(こよい)は人の死ぬ夜なの? なんていまたしいことでしょう」

と涙ぐめば、男もはらはらと涙を流して……

(徳兵衛)「二つ連(つ)れ飛ぶ人魂を余所(よそ)の上と思ふかや。まさしう御身と我が魂よ」

(お初)「何なう二人の魂(たましひ)とや。はや我々は死したる身か。」

(徳兵衛)「二つ連れ添って飛ぶ人魂(ヒトダマ)は他人事じゃない。まさしくあなたと私の魂だよ」

(お初)「なに?それって二人の魂? もはや私たちは死んだ身なの?」

(徳兵衛)ヲヽ常ならば結び止め繋ぎとめんと歎かまし。今は最期を急ぐ身の魂のありかを一つに住まん。道を迷ふな違(たが)ふな」




と。抱(いだ)き寄せ肌を寄せかつぱと伏して。泣きゐたる。二人の心ぞ不便(ふびん)なる。涙の糸の結び松。棕櫚(しゆろ)の一木の相生(あひおひ)を。連理(れんり)の契りになぞらへ露の憂身の置き所。

(徳兵衛)「おお、いつもだったら、魂を結び止めよう、つなぎ止めよう、生き長らえようとするけれど、今は死を急ぐ身の上。あの世で二つの魂を一つにして一緒に住もう。道を迷ってはいけないし踏み違えてはいけない」

と抱き寄せ、肌を寄せ合い、かっぱと倒れて泣いている二人の心は本当に哀れでした。二人の涙の糸が一つになるがごとく、同じ幹から松と棕櫚(しゅろ)がともに育つ姿を二人の変わらぬ愛の契(ちぎ)りになぞらえて、そこを露のように儚(はかな)い身の最期の置き場所と決めた徳兵衛は……

(徳兵衛)「サアこゝに極めん」

と。上着の帯を徳兵衛も初も涙の染(そめ)小袖。脱いでかけたる棕櫚(しゆろ)の葉のその玉箒(はゝき)今ぞげに浮世の塵を。払( はら)ふらん初が袖より剃刀(かみそり)出し。

(徳兵衛)「さあ、ここで心中をしよう」

と、上着の帯をほどき、お初も涙に染まった染め小袖を脱いで、棕櫚(しゅろ)の葉の上にかけました。二人は、その美しい箒(ほうき)にも見える葉で、今までの浮き世の迷いをすっかり掃(はら)うことでしょう。すると、お初は袖から剃刀(かみそり)を取り出し……

(お初)「もしも道にて追手(おつて)のかゝり割(わ)れ割(わ)れになるとても。浮名は捨てじと心がけ剃刀(かみそり)用意いたせしが。望みの通り一所で死ぬるこのうれしさ」

と言ひければ。

(お初)「もしも途中で追っ手がかかり別れ別れになったとて、恋に死ぬという噂は立てようと心に決めて用意してきましたが、望みどおりに一緒に死ねるなんて嬉しいわ」

と言えば……

(徳兵衛)「ヲヽ神妙(しんべう)頼もしゝ。さほどに心落ち着くからは最期(さいご)も案ずることはなし。さりながら今はの時の苦患(くげん)にて。死姿(しにすがた)見苦しと言はれんも口惜しゝ。此の二本(ふたもと)(れんり)の木に体をきつと(ゆは)付け。いさぎよう死ぬまいか世に類(たぐひ)なき死に様(やう)の。手本とならん」



(お初)「いかにも」

(徳兵衛)「おお、けなげで頼もしい。それほどまでに心が落ち着いていれば、命が果てる瞬間も心配ない。とはいえ死に際の苦しみで、死んだ姿が見苦しいと言われるのはくやしい。ここにある二本の仲睦(なかむつまじい)まじい木に二人の身体をぎゅっと結びつけ、いさぎよく死のうじゃないか。今までに見たことのない死にざまの手本と言われるように。

(お初)「そうありたいわ」

とあさましや浅黄染(あさぎぞ)め。かゝれとてやは抱(かゝ)へ帯両方へ引張りて。剃刀(かみそり)取つてさらさらと。「帯は裂けても主様(ぬしさま)とわしが間(あひだ)はよも裂けじ」

と、哀(かな)しいかな、こんなことをするために使うはずじゃなかったが、浅黄染めのしごき帯を解き、両方を引っ張って、カミソリを手に取りさらさらと裂いた。「帯は裂けても、あなたと私の仲は決して裂けやしません」

と。どうど座を組み二重(ふたえ)三重(みえ)
ゆるがぬやうにしつかと締め。

(徳兵衛)「よふ締まつたか。」

(お初)「ヲヽ締めました」

と、二人はべったり座り込んで、二重三重に緩まぬようしっかりと帯で身体を締め……

(徳兵衛)「よく締まったか。」

(お初)「はい締めました」

と。女は夫の姿を見男は女の体を見て。


(二人)「こは情なき身の果てぞや」

とわつと泣入る。ばかり也。

そう言いつつも、お初は夫の姿を見、徳兵衛はお初の様子を見るなり……

(二人)「なんと情けない最後の姿なのだろう」

と、わっと泣き暮れるばかりでありました。

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深夜の曽根崎の森@お初天神

恋の手本となりにけり

(徳兵衛)アヽ歎かじ

と徳兵衛。顔振りあげて手を合はせ。

(徳兵衛)「我幼少にて誠の父母に離れ。叔父といひ親方の苦労となりて人となり。恩も送らず此のまゝに。亡き後までもとやかくと。御難儀(ごなんぎ)かけん勿体(もつたい)なや。罪を許して下されかし冥途(めいど)にまします父母には。追(お)つ付(つ)け御目にかゝるべし迎へ給へ」





と泣きければ。お初も同じく手を合はせ。

(徳兵衛)「いや哀しさなんてあるものか」

と、徳兵衛は顔を振りあげて、手を合はせ……

(徳兵衛)「幼い頃、本当の両親から離れ、叔父(おじ)でもあるご主人様に厄介になって一人前になったにもかかわらず、恩がえしもせず、このまま亡きあとまであれこれとご迷惑をかけるのがもったいない。どうか過(あやま)ちを許してください。あの世におられる父と母には、もうすぐそちらでお目にかかることでしょう。お迎えくださいまし」

と泣いたので、お初も同じように手を合はせ……

(お初)「こな様はうらやましや冥途の親御(おやご)に逢はんとある我らが父様母様(とゝさまかゝさま)はまめで此の世の人なれば。いつ逢ふことの有るべきぞ便りは此の春聞いたれ共(ども)。逢ふたは去年の初秋(はつあき)の初が心中取沙汰の。明日は在所へ聞えなばいかばかりかは歎きをかけん。親たちへも兄弟へもこれから此の世の暇乞(いとまご)ひ。せめて心が通じなば夢にも見々(まみ)えてくれよかし。なつかしの母様やなごりおしの父様や」



と。しやくりあげあげ声も。惜しまず泣きければ。夫もわつと叫入り、流涕(りうてい)焦がるゝ心意気理(ことわり)せめてあはれなれ。

(お初)「あなた様はうらやましい。あの世にいるご両親とお会いなさるなんて。私のお父様やお母様は、この世で元気に暮らしてますから、いつお会いできることやら。お手紙はこの春にいただいたものの、お会いしたのは去年の初秋のこと。この初が心中した噂が、明日、田舎に伝わったとしたら、どれほど嘆きをかけることでしょう。両親へも兄弟へも、ここからこの世のお別れ。せめて私の心が通じるなら、夢のなかででも現れてほしい。なつかしいお母様。名残り惜しいお父様」

と。何度もしゃくりあげ声を惜しまずに泣くと、夫もわっと泣き叫び、涙を流し肉親への思いを寄せる気持ちは、もっともなことで不憫(ふびん)の至りでした。

(お初)いつ迄(まで)いふてせんもなし。はやはや殺して殺して

と最期を急げば

(徳兵衛)「心得たり」

と。脇差(わきざし)するりと抜放し。

(徳兵衛)サア只今(ただいま)ぞ南無阿弥陀南無阿弥陀」

(お初)「いつまで哀(かな)しんでいても仕方ありません。早く早く殺して。ねえ、殺して」

と死を急ぐと、徳兵衛は……

(徳兵衛)「わかったよ」

と、脇差をするりと抜き放して……

(徳兵衛)「さぁ、いよいよだよ。なむあみだ。なみあみだ」

と。言へどもさすが此の年月(としつき)いとしかはいと締めて寝し肌に(やいば)が当てられふかと。眼もくらみ手も震(ふる)ひ弱る心を引直し。取直してもなほ震ひ突くとはすれど切先(きつさき)は。あなたへ外れこなたへそれ。二三度ひらめく剣の刃。あつとばかりに咽笛(のどぶえ)に。ぐつと通るが

と、何度も念仏を称(とな)えてみたものの、さすがに今日という今日まで、いとしい、かわいいと抱きしめて寝た肌に刃(やいば)を当てるなんてできようか。目がくらみ、手も震え、弱る気持ちを何度も引きしめ取り直しても、ますます手が震えてしまい、うまく突くことができません。あちらへ外れたかと思えば、こちらへとそれ二三度きらめいた刃の先が、はずみであっと言う間に喉ぼとけに当たり、ぐっと通ると……

初音ミク+鏡音リンの曽根崎心中では「肌に切先を突き立てん」とアレンジされています。

(徳兵衛)「南無阿弥陀。南無阿弥陀南無阿弥陀仏」

と。くり通しくり通す腕先も。弱るを見れば両手を延べ。断末魔の四苦八苦。あはれと言ふも余り有り

(徳兵衛)「なむあみだ。なむあみだ。なむあみだぶつ」

念仏を称えながら、力の限りにえぐり通し、えぐり続ける徳兵衛の腕先も力が弱っていました。そして弱り切ったお初を見ると、両手を伸ばし苦しみもだえる死の間際は、哀(あわ)れなどと言葉では言い尽くせないありさまでした。

(徳兵衛)「我とても遅れふか息は一度に引取らん」

と。剃刀(かみそり)取つて咽に突立て。柄(つか)も折れよ刃も砕けとゑぐり。くりくり目もくるめき。苦しむ息も暁(あかつき)の知死期(ちしご)につれて絶果(たえは)てたり。誰(た)が告(つ)ぐるとは曽根崎の森の下風(したかぜ)音に聞え。取り伝へ貴賤群集(きせんくんじゆ)の回向(ゑかう)の種。未来成仏(じやうぶつ)疑ひなき恋の手本となりにけり。

(徳兵衛)「自分も遅れてなるものか。息は一度に引き取ろう」

と、剃刀を持って喉に突き立てて、力いっぱいに柄も折れよ刃もくだけよと、えぐりにえぐって目もくらみ、苦しむ息も、夜明けの死を迎える時につれて絶え果てました。誰が告げるともなく、曽根崎心中の森を吹き抜ける風のまにまに噂が広がり、身分の上下にかかわりなく多くの人達から善意の祈りを受けて、あの世で成仏する疑いのない恋の手本となったのです。

※追伸:今後,随時,写真や古い図版を追加予定ですのでご期待下さい。

   参考文献およびウェブサイト

『曾根崎心中 冥途の飛脚 心中天の網島 (諏訪春雄訳注・角川ソフィア文庫)
『新注絵入 曾根崎心中』(松平進編・和泉書院)
『近松世話物集 (守随憲治・旺文社文庫)
『心中への招待状―華麗なる恋愛死の世界 (小林恭二・文春新書)
『曾根崎心中』(角田光代・リトルモア)
その他の曾根崎心中関連の書籍
ボーカロイドの歌詞置場 曽根崎心中

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